2022.05.02

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～アジア会館のおすすめ～　エルグレコ

一見こじんまりしたお店のようですが、実は洞窟のように奥に広い空間が広がっています。店内に足を踏み入れると、そこにはオープン当初からほぼ変わらない、どこか懐かしい雰囲気が漂っています。赤いクッションの椅子、よく磨かれてつやのある木材家具、全面喫煙可能だったころを思わせる、少し茶色がかった天井。店内にあるもの全てが、開店当初から大切に使われ、受け継がれてきたことがうかがえます。

一際目を引くのは、ステンドグラスと壁に飾られた数々の油彩画たち。これらは全てオーナーが収集したもの。ステンドグラスは実際にスペインで使用されアメリカで販売されていたものを、オーナーが買い付けたと言われています。店内にある油彩画のほとんどは洋画家・小松崎邦雄氏の初期から現代に至るまでの作品。なぜ1人の画家の絵がこんなにたくさんあるのか？それは、オーナーが小松崎氏と交流があったからだそうです。

この小松崎氏が描いた1枚の絵が店名の由来になっています。店内一番奥の壁を見てみると、そこには16世紀にスペインで活躍した画家、エル・グレコ自身と彼の代表作の模写で構成された絵画があります。この絵があったため、店名が「エルグレコ」になったと言われています。エル・グレコが住んだ古都トレドの風景を眺めながらコーヒーをいただく。そんな贅沢な時間を過ごせる1枚です。

天井に飾られた円形の作品も注目の1枚です。こちらは同じく洋画家・藪野健氏の作品。藪野氏といえば澄み渡った青い空、通称「薮野ブルー」で知られる画家であり、その青空をここエルグレコでも体験することができます。余談ですが、過去に店内が全面喫煙可能だったころ、この絵画の空はタバコの汚れで長年曇りきっていたようです。全面禁煙となって久しぶりに拭き掃除をしたところ、快晴の青空が現れたという笑い話が残っています。

店内には様々な調度品があり、どこを見渡しても目に付くものばかり。店内奥の食器棚に飾られたガラスのグラスは、このお店で一番価値があるかもしれないと言われているようです。かつては出入口に使われていたドアの前には、オセロなどの懐かしいゲームが置かれています。

エルグレコは土地柄、接待に使用されることも多いようです。同ビルにはクリエイター関係のオフィスも多く、店内の独特な装飾を珍しがって利用してくれたり、撮影プロダクションから撮影現場として使いたいという依頼が来たりと、様々な用途の相談が来るといいます。「どの角度から撮影しても絵になる」空間に、心惹かれる人が多いことがうかがえます。

過去にはモーニングや夜の営業もしていたエルグレコですが、現在はランチが主軸。ランチの時間帯になると、近隣のオフィスワーカーで賑わいます。まずは看板メニューの 『GRECO特製カレーライス』がおすすめですが、日替わりの『なつき御膳』も人気があります。なつき御膳といえば、よく名前の由来を聞かれるそうです。店長さんに由来をお聞きすると、「ランチ営業の開始が5月だったため、当初は『皐月御膳』だったものが、季節の移り変わりとともに『夏季（なつき）御膳』となり、夏が終わった後も、音の響きがいいのでひらがな表記の『なつき御膳』で続けようとなりました。スタッフの名前と思われがちですが、 全然違うんです。」とお話ししてくださいました。

ランチ以外にも、ホットドッグなどの軽食、スコーンや手作りケーキのセットなどデザートメニューも豊富にあります。飲み物メニューも充実していますが、迷ったらまずはブレンドコーヒーがおすすめです。

エルグレコは個人経営のお店であり、とても良い意味でアバウトであり柔軟性があることが強みだそうです。過去には同じようなスタイルの喫茶店が、近隣にも多数あったそうですが、チェーンの大手カフェが参入することでその多くが店を畳んでしまったといいます。そんな中、時代のニーズに合わせつつ、大手がやらないようなことをやるゲリラ的な姿勢で運営を続けてきたエルグレコ。店長さんはそんな自身のお店を「青山ツインビルの飲食店の中ではかなり”とんがっている”」と表現します。「自由に、良い意味で適当に、通り一辺倒ではない人間味のある接客を心がけている。」とお話してくださいました。

エルグレコの魅力は、店内の貴重な調度品が醸し出す懐かしい雰囲気や、絵画に囲まれ美術館にいるような不思議な感覚だけでなく、何よりもその空間を創るスタッフの方々の気さくで飾らないスタイルにある。今回の取材でそれを強く感じました。時間に追われる日々の中で、ちょっと立ち止まって考えてみたい。時間をゆっくり過ごしたい。そう感じたときは、ぜひエルグレコを訪れてみてください。スタッフの方々が温かく迎えてくださることでしょう。